1第三項 イエズスの御復活 2墓より石の転ばし退けられたるを見て、 3内に入りけるに、主イエズスの御屍見當らざしかば、 4之に當惑したりしが、折しも輝ける衣服を着けたる二人の男、彼等の傍に立てり。 5彼等懼れて俯きたるに、其二人言ひけるは、何ぞ生者を死者の中に尋ぬるや、 6彼は此處に在さず、復活し給へり。思出せ、未だガリレアに居給ひし時、如何に汝等に語りしかを。 7即ち、人の子は必ず罪人の手に付され、十字架に釘けられ、三日目に復活すべし、と曰ひしなり、と。 8婦人等此御言を思出し、 9墓より歸りて、一切の事を十一使徒及び他の人々に告げたり。 10使徒等に告げしは、マグダレナ、マリアとヨハンナとヤコボの母マリア及び伴へる婦人等なりしが、 11其言荒誕の様に覚えて、使徒等は之を信ぜざりき。 12然れどペトロは起ちて墓に走行き、身を屈めて唯布のみ置かれたるを見しかば、有りし次第を心に怪しみつつ去れり。 13然て同日に弟子の二人、エルザレムより約三里を隔てたる、エンマウスと名くる村に往く途中、 14此起りたる凡ての事を語合ひ居たりしが、 15斯く語合ひて僉議しつつある程に、イエズス御自らも近づきて、彼等に伴ひ居給へり。 16然れど彼等の目は之を認めざる様、覆はれてありき。 17斯て彼等に向ひ、汝等が歩みながら語合ひつつ悲しめるは何の談ぞ、と曰ひしかば、 18名をクレオファと云へる一人答へて云ひけるは、汝は獨りエルザレムに於る旅人にして、此頃彼處に起りし事を知らざるか、と。 19イエズス何事ぞ、と曰ひしに彼等言ひけるは、ナザレトのイエズスの事なり、彼は預言者にして、言行ともに神と一般の人民とに對して勢力ありしが、 20我大司祭、及び首領等は、之に死罪を言渡して十字架に釘けたる次第なり。 21我等は、彼こそイスラエルを贖ふべき者なれと、待設け居たりしが、此等の事ありてより今日は早三日目なり。 22然て我等の中の或婦人等も亦我等を驚かせたり、即ち彼等未明に墓に至りしに、 23イエズスの御屍見當らず、而も天使等の現れて、彼は活き給へりと告ぐるを見たり、と云ひつつ來れり、 24斯て我等の中より或人々墓に往きしに、婦人等の云ひし如くなるを見しも、彼をば見付けざりき、と。 25イエズス彼等に曰ひけるは、嗚呼愚にして預言者等の語りし凡ての事を信ずるに心鈍き者よ、 26キリストは、是等の苦を受けて而して己が光榮に入るべき者ならざりしか、と。 27斯てモイゼ及び諸の預言者を初め、凡ての聖書に就きて、己に関する所を彼等に説明し居給ひしが、 28彼等其之く所の村に近づきし時、イエズス行過ぎんとするものの如くにし給へるを、 29彼等強ひて、日既に傾きて暮れんとすれば、我等と共に留り給へ、と云ひしかば共に入り給へり。 30斯て共に食卓に就き給へるに、麪を取りて之を祝し、擘きて彼等に授け給ひければ、 31彼等の目開けてイエズスを認りしが、忽ちにして其目より消え給へり。 32彼等語合ひけるは、路次語りつつ聖書を我等に説明かし給へる間、我等の心は胸の中に熱したりしに非ずや、と。 33時を移さず、立上りてエルザレムに歸れば、十一使徒及び伴へる人々既に集りて、 34主實に復活してシモンに現れ給ひたり、と云ひ居れるに遇ひ、 35己等も亦、途中にて起りし事、及び麪を擘き給ひし時に主を認めし次第を語れり。 36此等の事を語る程に、イエズス其眞中に立ちて、汝等安かれ、我なるぞ、畏るること勿れ、と曰ひければ、 37彼等驚き怖れて、幽霊を見たりと思へるを、 38イエズス曰ひけるは、汝等何ぞ取亂して心に種々の思を起すや。 39我手我足を見よ、即ち我自身なり、撫で試みよ、幽霊は、汝等が我に於て見る如き骨肉ある者に非ず、 40と曰ひて手足を彼等に示し給へり。 41彼等歓喜の餘に驚嘆しつつも、猶信ぜざりければ、イエズス、茲に食すべき物ありや、と曰ひ、 42彼等焼魚の一片と、一房の蜂蜜とを呈したるに、 43彼等の前にて食し給ひ、殘を取りて彼等に與へ給へり。 44然て彼等に曰ひけるは、是我が未だ汝等と共に在りし時に、モイゼの律法と預言者等の書と詩篇とに、我に関して録したる事は、悉く成就せざるべからず、と汝等に語りし事なり、と。 45是に於て聖書を暁らしめん為に、彼等の精神を啓きて曰ひけるは、 46録されたる所斯の如く、又キリストは苦を受けて、死者の中より三日目に復活すること、斯の如くなるべかりき。 47又改心と罪の赦とは、エルザレムを始め、凡ての國民に、其名に由りて宣傳へられざるべからず、 48汝等は此等の事の證人なり。 49我は父の約し給へるものを汝等に遣はさんとす、汝等天よりの能力を着せらるるまで市中に留れ、と。 50イエズス終に彼等をベタニアに伴ひ、手を挙げて之を祝し給ひしが、 51祝しつつ彼等を離れて、天に上げられ給ひぬ。 52彼等之を拝し奉り、大いなる喜を以てエルザレムに歸りしが、 53其より常に[神]殿に在りて、神を頌賛し且祝し奉りつつありき、アメン。 ¶