1第二款 生來の瞽者醫さる 2弟子等、ラビ此人の瞽者に生れしは誰の罪ぞ、己の罪か兩親の罪か、と問ひたるに、 3イエズス答へ給ひけるは、此人も其親も罪を犯ししに非ず、彼が身の上に神の業の顕れん為なり。 4我を遣はし給ひし者の業を我晝の間に為さざるべからず、誰も業を為す能はざる夜は将に來らんとす、 5我世に在る間は世の光なり、と。 6斯く曰ひて、イエズス地に唾し、唾を以て泥を造り、之を彼の目に塗りて、 7曰ひけるは、シロエの池に至りて洗へ、と。シロエとは遣はされたるものと訳せらる。彼即ち往きて洗ひしに、目明きて歸れり。 8斯て隣人及び曾て彼が乞食せるを見し人々は、是坐りて乞食し居たりし者ならずや、と云へば、或人は其なりと言ひ、 9或人は否其に似たる人なりと言ふを彼は、我其なりと云ひ居たり。 10然れば彼等、汝の目は如何にして明きたるぞ、と言へるに、 11彼答へけるは、彼イエズスと稱する人、泥を造りて我目に塗り、シロエの池に至りて洗へと云ひしかば、我往きて洗ひて、然て見ゆるなり、と。 12人々、其人何處に居るぞと云ひしに彼、我は之を知らず、と云へり。 13彼等其瞽者なりし人をファリザイ人の許に伴ひ行きしが、 14イエズスの泥を造りて其目を明け給ひしは、安息日なりければ、 15ファリザイ人更に、如何にして見ゆるに至りしぞ、と問へるを彼答へて、彼人わが目に泥を塗り、我之を洗ひたれば見ゆるなり、と云ひしかば、 16ファリザイ人の或者は、安息日を守らざる彼人は神よりの者に非ずと云ひ、或者は、罪人なる者争でか斯る奇蹟を行ふを得んや、と云ひて彼等の間に諍論ありき。 17然れば重ねて瞽者なりし人に、汝は其目を明けし人を何と謂ふぞ、と云へば、彼は、預言者なり、と云へり。 18ユデア人は、彼が曾て瞽者にして、見ゆる様になれるを信ぜざれば、遂に彼目明きし人の兩親を呼び、 19問ひて云ひけるは、瞽者に生れしと汝等が云へる其子は是なるか、然らば如何にして今見ゆるぞ、と。 20兩親答へて、彼が我子なる事と、瞽者に生れし事とは、我等之を知る、 21然れど如何にして今見ゆるかを知らず、又其目を明けし者の誰なるかは、我等は知らざるなり、彼に問へ、彼年長けたれば自ら己が事を語るべし、と云へり。 22兩親の斯く云ひしは、ユデア人を懼れたる故にして、彼等が、イエズスをキリストなりと宣言する人あらば、之を會堂より逐出すべし、と言合せたるに因れり、 23彼年長けたれば之に問へ、と兩親の云ひしは之が為なり。 24是に於て彼等、再び彼瞽者なりし人を呼出して、汝神に光榮を歸せよ、我等は彼人の罪人なる事を知れり、と云ひしかば、 25彼云ひけるは、彼が罪人なりやは我之を知らず、我が知る所は一、即ち瞽者なりしに今見ゆる事是なり、と。 26其時彼等又、彼人汝に何を為ししぞ、如何にして汝の目を明けしぞ、と云ひしに、 27彼、我既に汝等に告げて汝等之を聞けり、何為ぞ復聞かんとはする、汝等も其弟子と成らん事を欲するか、と答へしかば、 28彼等之を詛ひて云ひけるは、汝は彼の弟子にてあれ、我等はモイゼの弟子なり、 29我等は神がモイゼに語り給ひし事を知れど、彼人の何處よりせるかを知らず、と。 30瞽者なりし人答へて、汝等が其何處よりせるかを知らざるこそ怪しけれ、彼我目を明けしものを。 31我等は知る、神は罪人に聴き給はず、然れど神に奉事して御旨を行ふ人あれば之に聴き給ふことを。 32開闢以來生れながらなる瞽者の目を明けし人ある事を聞かず、 33彼人若神より出でたるに非ずば何事をも為し得ざりしならん、と云ひしかば、 34ファリザイ人答へて、汝は全く罪の中に生れたるに、猶我等を教ふるか、と云ひて之を逐出だせり。 35イエズス其逐出だされし事を聞き、之に出遇ひ給ひし時、汝神の子を信仰するか、と曰ひしに、 36彼答へて、主よ、我が之を信仰すべき者は誰ぞ、と云ひしかば、 37イエズス曰ひけるは、汝それを見たり、汝と語る者即ち是なり、と。 38彼、主よ、我は信ず、と云ひて平伏しつつイエズスを禮拝し奉れり。 39イエズス曰ひけるは、我審判の為に此世に來れり、即ち目見えざる人は見え、見ゆる人は瞽者と成るべし、と。 40ファリザイ人の中イエズスと共に在りし者之を聞きて、我等も瞽者なるか、と云ひしかば、 41イエズス彼等に曰ひけるは、汝等瞽者ならば罪なかるべし、然れど今自ら見ゆと云ふに由りて、汝等の罪は遺るなり。 ¶