1第三款 イエズスサマリアを過り給ふ 2――但洗せるはイエズスに非ずして、其の弟子等なりき―― 3ユデアを去りて再びガリレアに往き給へり。 4然るにサマリアを通らざるを得ざりしければ、 5ヤコブが其子ヨゼフに與へし土地に近き、サマリアのシカルと云へる町に至り給ひしが、 6此處にヤコブの井ありけるに、イエズス旅に疲れて、其儘井の上に坐し給へり、時は十二時頃なりき。 7爰にサマリアの一人の婦、水汲みに來りしかば、イエズス之に向ひて、我に飲ませよ、と曰へり。 8是弟子等は食物を買はんとて町に往きたればなり。 9其時サマリアの婦云ひけるは、汝はユデア人なるに、何ぞサマリアの婦なる我に飲物を求むるや、と。是ユデア人はサマリア人と交らざる故なり。 10イエズス答へて曰ひけるは、汝若神の賜を知り、又我に飲ませよと汝に云へる者の誰なるかを知らば、必ず彼に求め、彼は活ける水を汝に與へしならん。 11婦云ひけるは、君よ、汝は汲む物を有たず、井は深し、然るを何處よりして活ける水を有てるぞ。 12我等が父ヤコブ此井を我等に與へ、自らも其子等も其家畜も之より飲みしが、汝は彼より優れる者なるか。 13イエズス答へて曰ひけるは、総て此水を飲む者は復渇くべし、然れども我が與へんとする水を飲む者は永遠に渇かず、 14我が之に與ふる水は、却て彼に於て、永遠の生命に湧出づる水の源となるべし。 15婦云ひけるは、君よ、我が渇く事なく此處に汲みにも來らざる様、其水を我に與へよ。 16イエズス曰ひけるは、往きて夫を呼來れ。 17婦答へて、我は夫なし、と云ひしかば、イエズス曰ひけるは、善くこそ夫なしと云ひたれ、 18夫は五人まで有ちたりしに、今あるは汝の夫に非ず、汝が然云ひしは實なり。 19婦云ひけるは、君よ、我観るに、汝は預言者なり。 20我等が先祖は此山にて禮拝したるに、汝等は云ふ、禮拝すべき處はエルザレムなりと。 21イエズス曰ひけるは、婦よ、我を信ぜよ、汝等が此山となくエルザレムとなく、父を禮拝せん時來るなり。 22汝等は知らざる者を禮拝し、我等は知りたる者を禮拝す、救はユデア人の中より出づればなり。 23然て眞の禮拝者が、霊と實とを以て父を禮拝すべき時來る、今既に其時なり。其は父も、斯く己を禮拝する人を求め給へばなり。 24神は霊にて在せば、之を禮拝する人は、霊と實とを以て禮拝せざるべからず、と。 25婦イエズスに謂ひけるは、我はメッシア(所謂キリスト)の來るを知る。然れば彼來らば萬事を我等に告ぐべし。 26イエズス之に曰ひけるは、汝と語りつつある我、即ち其なり、と。 27軈て弟子等來り、イエズスの婦と語り給へるを怪しみしかど、誰も何をか求め何故彼と語り給ふ、と云ふ者なかりき。 28斯て婦、其水瓶を遺して町に往き、其處なる人々に向ひ、 29來て見よ、我が為しし事を殘らず我に云ひたる人を、是はキリストならんか、と云ひしかば、 30彼等町より出でてイエズスの許に來れり。 31其隙に弟子等イエズスに請ひて、ラビ食し給へ、と云ひしに、 32曰ひけるは、我には汝等の知らざる食物の食すべきあり、と。 33弟子等、誰か食物を持來りしぞ、と云ひ合へるを、 34イエズス曰ひけるは、我が食物は、我を遣はし給ひし者の御旨を行ひて其業を全うする事是なり。 35汝等は、尚四箇月の間あり、其後収穫の時來る、と云ふに非ずや。我汝等に告ぐ、目を翹げて田畑を見よ、最早穫取るべく白みたり。 36穫る人は報を受けて永遠の生命に至るべき果を収むれば、捲く人も穫る人も共に喜ぶべし。 37諺に一人は撒き一人は穫ると云へる事、是に於て乎實なり。 38我汝等を遣はして、勞作せざりし物を穫らしめたり。即ち他の人前に勞作して、其勞作したる所を、汝等が承継ぎたるなり、と。 39然て彼町にては、彼人我が為しし事を殘らず我に告げたり、と證したる婦の言によりて、多くのサマリア人イエズスを信ぜしかば、 40人々御許に來りて、此處に留り給はんことを請へり、然れば此處に留り給ふ事二日にして、 41尚多くの人御言によりて之を信仰せり。 42斯て彼婦に向ひ、我等は最早汝の語る所によりて信ずる者に非ず、即ち自ら彼に聴きて、其眞に救世主たる事を知れり、と云ひ居たり。 ¶ 43第四款 イエズスガリレアに至り給ふ 44預言者其本國に尊ばれず、と自ら證し給ひしが、 45ガリレアに至り給ひしに、ガリレア人は、曾て祭日にエルザレムにて行ひ給ひし一切の事を見たりければ、イエズスを歓迎せり、其は彼等も祭日に往きてありしなり。 46斯てイエズス再び、嚮に水を酒に化し給ひしガリレアのカナに至り給ひしに、一人の王官あり、其子カファルナウムにて病み居ければ、 47イエズスユデアよりガリレアに來給ふと聞きて、御許に至り、下りて己が子を醫し給はん事を切に願ひ居たり、彼将に死なんとすればなり。 48イエズス之に曰ひけるは、汝等は徴と奇蹟とを見ざれば信ぜず、と。 49官人イエズスに向ひて、主よ、我子の死なざる前に下り來給へ、と云ひしに、 50イエズス、往け、汝の子活く、と曰ひしかば、此人イエズスの己に曰ひし御言を信じて往きたり。 51然て下る途に、僕等行逢ひて、其子の活きたる由を告げければ、 52其回復せし時刻を問ひしに、彼等、昨日の午後一時に熱去れり、と云ふにぞ、 53父は恰もイエズスが汝の子活くと己に曰ひしと同時なりしを知り、其身も一家も挙りて信仰せり。 54此第二の奇蹟は、イエズスユデアよりガリレアに至り給ひし時に行ひ給ひしなり。 ¶