1第二款 舊約時代の英雄の信仰の例 2蓋故人之を以て好評を得たり。 3信仰に由りて我等は、世界が神の一言にて組立てられ、現に見ゆるものが見ゆるものより成出でざりしことを暁る。 4信仰に由りてアベルは、カインの其に優れる犠牲を神に献げ、信仰に由りて義人たる保證を受け、神其献物を保證し給ひ、彼は信仰に由りて死しても猶言ふなり。 5信仰に由りてヘノクは、死を見ざらん為に移され、神之を移し給ひしに由りて見出されざりき、其は移転の前に神の御意に適へる事を證せられたればなり。 6信仰なくしては神の御意に適ふこと能はず、蓋神に近づき奉る人は、必ずや神の存在して之を求め奉る人々に報い給ふ者なる事を信ぜざるべからず。 7信仰によりてノエは、未だ見えざる事柄に就きて黙示を蒙り、畏みて家族を救はん為に方舟を造り、之を以て世の人を罪し、其身は信仰に由れる義の世嗣と為られたり。 8信仰に由りてアブラハムは、承継ぐべき地に出づべしとの召に從ひ、何處に行くべきかを知らずして立出でたり。 9彼は約束の地に於て他國にあるが如く、同じ約束を相継ぐべきイザアク、ヤコブと共に幕屋に住めり、 10其は神を其設立者、建築者に戴ける、基礎ある都會を待てばなり。 11信仰に由りてサラも、石女にして齢過ぎたるに孕を胎す力を得たり、是約し給へる者の忠實に在す事を信じたるが故なり、 12斯て一人より、而も既に死せるに齊しき者より出でし人、空の星の如く夥しく、海辺の眞砂の如く數へ難し。 13彼等は皆信仰に從ひ、約束のものを受けずして死したれども、遥に望みて之を祝し、地上に於て己は旅人たり寄留人たる事を宣言せり。 14斯く語る人々は、是本國を求むる事を示す者なり。 15若其懐へる所曾て出でたる本國ならば、復還る時もありしならん、 16然れど彼等は、今一層善きもの、即ち天の[本國]を慕ひしなり、故に神は彼等の神と呼ばるるを耻とし給はず、其は彼等の為に都會を備へ給ひたればなり。 17信仰に由りてアブラハムは、試みられし時イザアクを献げたり、其献げたりしは、約束を蒙りたりし獨子にして、 18曾て「汝の子孫と稱へらるるはイザアクによるべし」と謂はれし其者なりき。 19即ち彼謂へらく、神は死したる人々をも復活せしむるを得給ふなりと、而して前表として其子を還與へられたり。 20信仰に由りてイザアクは、将來の事に就きてヤコブとエザウとを祝福せり。 21信仰に由りてヤコブは、死に臨みてヨゼフの子等を各祝福し、杖の首に倚りて禮拝せり。 22信仰に由りてヨゼフは、死に臨みてイスラエルの子等の出立を思はしめ、己が骸骨に就きて命を下せり。 23信仰に由りてモイゼは、生れて三月の間兩親によりて匿されたり、是其子の美しきを見たるが故にして、彼等は國王の命令を懼れざりき。 24信仰に由りてモイゼは、成長してファラオンの女の子たる事を否めり、 25即ち罪によれる暫時の快樂よりも、寧神の民と共に悩むことを擇み、 26キリストの耻辱を以てエジプトの寳に優れる富とせり、其は報酬を眺め居たればなり。 27信仰に由りて彼は、國王の怒を怖れずしてエジプトを去れり、即ち見えざる所を見るが如くにして忍耐せしなり。 28信仰に由りて彼は過越を祝ひ、又長子を亡ぼせる者の彼等に触れざらん為、[羔の]血を沃ぐ禮を行へり。 29信仰に由りて彼等は、紅海を陸の如くにして渡れり、エジプト人は之を試みて溺れたりき。 30信仰に由りてエリコの城壁は、七日の間廻られて崩れたり。 31信仰に由りて娼婦ラハブは、探偵者を懇切に接待せしかば、不信者と共には亡びざりき。 32此外に我何をか言はん、ゲデオン、バラク、サムソン、イエフテ、ダヴィド、サムエル及び預言者等の事を述べんには時足らざるべし。 33信仰に由りて彼等は、國々に打ち勝ち、義を行ひ、約束を蒙り、獅子の口を塞ぎ、 34火の勢を消し、剣の刃を迯れ、弱きを強うせられ、軍に勇ましき者と成りて異邦人の陣を破り、 35婦人等は其死したりし者を復活を以て還與へられ、或人々は引裂かれて、勝れたる復活を得ん為に迯るる事を肯ぜず、 36或人々は侮辱打擲の上に捕縛入獄に遇ひ、 37石を擲たれ、鋸にて挽かれ、試され、剣にて殺され、羊山羊の毛皮を纏ひて萬事に缺乏し、責められ悩まされて流浪せり。 38世は此人々を置くに堪へざりしに、彼等は荒地に山に、地の洞及び穴の内に彷徨ひしなり。 39彼等も皆信仰の稱揚を得たれども、約束のものをば得ざりき。 40是神が我等の為に更に宜しき事を圖り給ひて、我等と共にならでは彼等の全うせられざらん為なり。 ¶