1第八項 パウロ、フェストの法廷に出頭す 2司祭長等及びユデア人の重立ちたる者、パウロを訴へんとて其許に至り、 3御恵には命じてパウロをエルザレムに連行かしめ給へ、と願へり。是途中に待伏して、彼を殺さんとすればなり。 4フェスト答へて、パウロは守られてカイザリアに在り、我程なく出立すべければ、 5若彼人に罪あらば、汝等の中の然るべき人々、我と共に下りて之を訴ふべし、と言へり。 6斯てフェストは、八日か十日ばかり彼等の中に滞在してカイザリアに下り、翌日法廷に坐し、命じてパウロを引出させしが、 7パウロ召出されければ、エルザレムより下りたるユデア人等之を取圍みて、種々の重罪を負はせたれど、之を證する事能はざりき。 8パウロは自ら弁解して、我ユデア人の律法に對しても、神殿に對しても、セザルに對しても、何らの罪を犯したる事なし、と言へり。 9フェストユデア人を喜ばせんとて、パウロに答へて、汝エルザレムに上り、彼處にて我前に裁判を受けん事を欲するか、と云ひしかば、 10パウロ云ひけるは、我はセザルの法廷に立てり、此處にて裁判せらるべし。汝の能く知れるが如く、我はユデア人に害を加へたる事なし、 11若害を加へたるか、或は死刑に當る何事をか為したらんには、我死を辞せず、然れど彼等が我に負はする事一も立たずば、誰も我を彼等に交付し得べからず、我セザルに上告す、と。 12是に於てフェスト、陪席と談じて後答へけるは、汝セザルに上告したればセザルの許に往くべし、と。 13數日を経てアグリッパ王及びベルニケは、フェストの安否を問はんとてカイザリアに下り、 14數日間滞在しければ、フェストパウロの事を王に告げて云ひけるは、茲にフェリクスより遺し置かれたる一人の囚人あり、 15我エルザレムに居りし時、司祭長、ユデア人の長老等、我許に來りて、之が宣告を願ひしかど、 16我、何人にもあれ、被告人が原告人と對面して罪を弁解する機を得ざる中に、之を刑罰するは、ロマ人の慣例に非ず、と答へたり。 17是に由て彼等、時を移さず此處に集來りたれば。翌日我法廷に坐し、命じて彼人を引出さしめ、 18原告人等之に立會ひしに、我が嫌疑を懸けたる如き罪をば一點も負はせず、 19己が宗教及び活き居れりとパウロが断言せる一人の死者イエズスに関する問題を提出したるのみ、 20我斯る問題には當惑したれば彼人に向ひて、汝エルザレムに至り、是に就きて裁判を受くる事を望むか、と云ひしに、 21パウロはオグストの裁判に保留せらるる様上告せしかば、我命じて、セザルの許に送るまで守らせ置けり、と。 22アグリッパ、我も彼人に聞きたし、とフェストに謂ひしかば、汝明日之に聞くべし、と云へり。 23翌日アグリッパとベルニケと華美を盡して來り、千夫長及び市の重立ちたる人々と共に公判廷に入りしかば、フェストの命令の下にパウロ引出されたり。 24斯てフェスト云ひけるは、アグリッパ王及び此處に我等と列席せる人等よ、汝等の見る此人は、ユデア人の群衆挙りて我に訴へ、最早活くべき者に非ず、と叫びつつ願ひし者なり。 25然して我は死に値する何等の罪なき事を彼に認めたれど、彼オグストに上告せしにより、之を送付すべしと決せり。 26我君に上書せんとするに確乎なる事實なきを以て、之を汝等の前、殊にアグリッパ王よ、御前に引出し、尋問して上書すべき事柄を得んとす、 27其は囚人を送りて其罪案を書添へざる事の無理なるを惟へばなり、と。 ¶